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森山工先生が第19回日本文化人類学会賞を受賞

本科の森山工先生が、一般社団法人日本文化人類学会より「第19回日本文化人類学会賞」を受賞しました。

「授賞対象業績」は、「マダガスカル民族誌とモースの贈与論に関する一連の研究」です。
「授賞理由」については、以下のように公表されています。

(受賞理由)
森山工氏は、最初の著書である『墓を生きる人々-マダガスカル、シハナカにおける社会的実践』(1996年、東京大学出版会)において、丹念なフィールドワークと広範な文献資料の渉猟に基づき、マダガスカル・シハナカの人々の墓をめぐる社会関係や社会的実践を精緻に描き出した。その奥行のある民族誌的記述と深い洞察は、マダガスカルやアフリカを対象とした民族誌的研究の発展に大きく寄与したのみならず、エスニシティ論や親族論にも新たな視座をもたらした。また、実践と情緒の関係に関する記述と分析は、情動をめぐる近年の議論を先取りする試みであり、フィールドワークにおける調査者の森山氏と被調査者のシハナカの人々の応答をめぐる再帰的な記述と分析は、民族誌批判以降の民族誌を再創造/想像する試みとしても意義深い。
森山氏はその後、シハナカおよび近隣のメリナの人々の墓や家をめぐる社会的実践に関する民族誌的記述・分析と、マルセル・モースの贈与論のテクスト読解・分析を組み合わせた『贈与と聖物-マルセル・モース「贈与論」とマダガスカルの社会的実践』(2021年、東京大学出版会)を著している。これは古典のテクスト分析と民族誌的分析を有機的に接合するというユニークな著作であると同時に、モースの議論における「贈与」、「交換」、「譲り得ぬもの」という三つの概念のもつれあいを丹念に解きほぐすことを通じて、モース贈与論にこれまでにない解釈をもたらす画期的な業績でもあった。贈与論をめぐる新たな視点の導入と議論の深化は、続く『「贈与論」の思想-マルセル・モースと〈混ざりあい〉の倫理』(2022年、インスクリプト)においても顕著である。同書は、多くの人類学者が自明視してきた贈与論者としてのモース、あるいはその贈与論自体をいったん外に開き、モースの社会主義者・社会実践家としての思想と活動に分析の軸足を置き直したうえで、そこから贈与論を再考した極めて意欲的な著作である。
森山氏はまた、マルセル・モースの『贈与論 他二篇』(2014年、岩波文庫)および『国民論 他二篇』(2018年、岩波文庫)の翻訳者としても知られる。五度目の日本語訳となる前者は、日本語としての平明さもさることながら、数多くの割注を付し、専門外の読者であっても理解が進むよう配慮されている点で他の翻訳とは一線を画す。後者で浮き彫りになったモースの社会実践家としての側面は、モースの贈与論を読み解き直す上で大きな示唆を与えてくれる。 これらの成果は、人類学のみならず、社会思想史や経済思想史、社会運動論などの分野を横断して参照されてしかるべき質と方向性を具えている。 以上の理由により、森山工氏に第19回日本文化人類学会賞を授与する。


森山先生、ご受賞おめでとうございます!